二階への階段をゆっくりと登っていく。手空きの陰間たちは今や伝説になりつつある春哉を直に見物するため部屋の中から視線を走らせ、客も目の保養とばかりにこちらに集中する。春哉はそれらを横目に客の入り具合を探っていたが、やはり自分が居た頃よりも減少していることは明白であった。
数馬も気が気でない。自分の恋人が人の目をひいていること自体がひどく気に食わないので、春哉の後ろからさりげなく威嚇している。
途中で客を連れて廊下を歩く懐かしい陰間たちともすれ違ったが、言葉を交わすことはせず目礼だけで済ませる。むろん客への配慮である。陰間たちの反応を見る限り、春哉を歓迎してくれているらしいことはわかった。
「こちらになります」
案内されたのは広めの座敷であった。無駄な調度品はなく、ただ畳が敷き詰められているだけの広間。芸事の稽古にはうってつけである。
「数馬さんはそこで見学していて下さい。私が何をしても、絶対に手を出さないで下さいね」
部屋の端に座布団を敷いて座る。ふすまを閉め、広い部屋は三人だけの世界となる。
「では、早速始める。夢丸、まずは扇を持て」
「はいっ!」
今の春哉に普段の柔らかな雰囲気などない。おそらくこれが本当の春哉なのだろう。花形の陰間として君臨したあの頃の春哉が今、そこにいた。
「よいか、舞は芸事の基本だ。後日三味(しゃみ)も教えるが、まずは舞を完璧にこなせ。これが出来なければ花街では残れぬ。……さて、お前もそれなりの舞を仕込まれたと思うが、一度舞ってみろ。三味は私が弾く」
部屋に備え付けられている三味線を手に取ると撥(ばち)で軽くはじく。数馬は三味線を弾く春哉など見たことがないため、その姿を目に焼き付けるように観察している。
一定の旋律が部屋に流れる。その旋律にあわせて夢丸が軽く舞う。足の先から指の先まで神経を集中させ、かつしなやかな動きを繰り返す。素人目に見ればそれは素晴らしい動きなのだが……。
ふいに三味線を奏でる手を止めた春哉は、冷たい視線で夢丸を睨みつける。
「お前は子供の真似事程度の技量で私に教えを乞おうとしたのか?……まったく、私も安くみられたものだ」
「おい……春哉!」
普段の春哉では考えられない暴言である。数馬は慌てて口を挟むが、それも一蹴される。
「数馬さんは手を出さないと約束したはずです。さぁ夢丸、もう一度舞ってみろ。今度は死ぬ気でやれ」
「は、はいっ!」